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14: 機能性僧帽弁閉鎖不全症に対するマイトラクリップの長期治療効果
僧帽弁そうぼうべんは、左室と左房の境界にある弁で、二つの弁尖べんせんとそれを牽引けんいんしている腱索けんさく・腱索の付着している乳頭筋から構成されています。僧帽弁の閉じが悪くなり、左室が収縮して全身に動脈血を送り出す時に、左室から左房に血液が漏れ逆流する疾患が僧帽弁閉鎖不全症(Mitral Regurgitation:MR)です。左房への逆流によって左房圧の上昇と左房の容量負荷・拡大、進行すると左室拡大を惹起じゃっきします。
弁の構造自体には異常が無くても発生するMRは機能性MRと呼ばれ、拡張型心筋症・心筋梗塞後・慢性心房細動などに合併します。心不全症例の半数以上・心筋梗塞後症例の20~40%・10年以上の長期持続心房細動症例の28%に機能性MRが認められて居り、稀な疾患ではありません。機能性MRの発症機序として、左室の拡大で乳頭筋が外測に変位して腱索を強く牽引して弁尖の可動性が低下し起こる・左房の拡大で弁尖が屈曲して可動性が低下する(hamstringing現象)などの説が有力視されています。機能性MRは、独立した予後増悪の危険因子で、軽度の機能性MRでも予後を悪化させます。
MitraClip®(マイトラクリップ)は、経カテ-テル的に僧帽弁形成術を行う事が出来る装置で、右心系に装置を挿入し、心房中隔を穿刺して左心系に装置を進入させ、クリップで僧帽弁の前尖・後尖を掴みクリップを閉じる事でMRを減少させます。欧州では2008年から、米国では2013年から使用され、欧米では2020年迄に10万例以上でMitraClipを用いた手術が施行されており、日本でも2018年4月に保険適用されました。
2023年6月1日付けでNew England Journal of Medicineニューイングランド ジャーナル オブ メディシン誌に、機能性MRにMitraClipを用いた治療後の5年間を観察した臨床研究(COAPT trial)の結果が公表されました。対象は、最大量の標準的心不全治療を行ってもNYHA分類でⅡ~Ⅳの症状のある心不全症例で中~高度(Ⅲ°)・高度(Ⅳ°)の機能性MRを合併している614症例で、302例を標準的心不全治療にMitraClipを用いた治療を追加した群、312例は標準的な心不全治療のみを行った対照群に振り分け、5年の期間の心不全による入院・全ての原因の死亡率を両群で比較しました。5年間の観察期間の入院率/年ではMitraClip群で33.1%、対照群は57.2%でハザード比0.53とMitraClip群が低く、死亡率も、MitraClip群で57.3%、対照群は67.2%でハザード比0.72と低く、MitraClip治療の有効性が確認されました。
日本でのMitraClip治療の適応基準は、2021年に公開された日本循環器学会の「先天性心疾患、心臓大血管の構造的疾患に対するカテーテル治療のガイドライン」で規定されていますが、欧州ではMitraClip治療の7割が機能性MRに対して行われており、このCOAPT試験の結果も踏まえ、今後も適応基準は少しずつ修正されるでしょう。
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