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10: 左室駆出率の保たれた心不全をどの様に診断するか
左室駆出率とは、心臓超音波検査(心エコー)での指標で、全身に動脈血を送り出す左心室の収縮機能を代表しています。左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)は、心不全の約半数を占め、左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)と同程度に予後は悪いと考えられています。HFpEFは、様々な病態が含まれていますが、心筋の肥大・肥厚により心筋の硬直性が増し拡張機能が障害された病態がかなり多くの部分を占めていると考えられています。
ところが、HFpEFは、高齢者に多く、心不全の症状・徴候が非特異的で診断が容易ではありません。2016年にヨーロッパ心臓病学会(ESC)は、HFpEFの診断基準を発表しました。⑴労作時呼吸困難などの心不全の症状、徴候がある。⑵左室駆出率が50%以上。⑶血液検査でナトリウム利尿ペプチド値が上昇(BNP>35pg/㎖、若しくはNT-proBNP>125pg/㎖)。⑷心臓の構造的変化を心エコーで認める(左室肥大か左房拡大、左室拡張機能障害)。この基準では、特に拡張機能の評価の項目・指標の正常/異常の境界が曖昧です。
そこで2019年にはESCは、複数の指標を点数化した更に詳細なHFpEF診断手順を発表しました。Step1:心不全症状+心電図+胸部単純写真+ナトリウム利尿ペプチド測定+標準的心エコーでスクリーニングを行う。HFpEFが疑われるとStep2:更に詳しい心エコー検査での指標とナトリウム利尿ペプチド値で点数化(HFA-PEFFスコア)する(組織ドプラー法での僧帽弁輪部運動の拡張早期の速度、左室重量係数、左房容積係数、三尖弁さんせんべん逆流速度、相対的壁厚、左室長軸方向ストレイン値を測定・計算する)。HFA-PEFFスコア≧5点で診断確定、HFA-PEFFスコア2~4点→Step3へ。Step3:心エコーでの運動負荷拡張機能検査を行う。心臓カテーテル検査で左室拡張末期圧か肺動脈楔入圧の上昇を確認する。Step4:HFpEFの原因疾患を調べる(心臓MRI検査・心筋生検・心筋シンチグラム・遺伝子検査・その他の特殊検査)。心エコー検査は、原則的に再現性が乏しく、検査者が異なれば検査値もばらつき精度も落ちる可能性があり、心エコー検査での多数の指標を用いる事は、グレーゾーンでの診断では、精度に問題が出てきます。
2018年、メイヨークリニックからHFpEFの診断の簡便な点数化システムが提唱されました(H2FPEFスコア)。肥満:BMI>30㎏/㎡で2点、高血圧:2種類以上の降圧剤の服用で1点、発作性若しくは持続性の心房細動がある:3点、肺高血圧:収縮期肺動脈圧>35mmHg(心エコーで測定) で1点、高齢:60歳以上で1点、左室充満圧の上昇:E/e’>9(心エコーのドップラー法で算出)で1点の合計9点の内、H2FPEFスコア6点以上でHFpEFの可能性が非常に高いと診断されます。
HFpEFの治療には、エンパグリフロジン・ダパグリフロジンの2種類のSGLT2阻害剤が現在使用可能です。前記の診断基準・手順は、治療の第一歩の一助になるでしょう。
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