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16: 心房細動を伴った脳梗塞症例に対する早期抗凝固療法
非弁膜症性心房細動を伴う脳梗塞に対して、直接作用型経口抗凝固剤(DOAC:ダビガトラン・エドキサバントシル・リバーロキサバン・アピキサバンなど)の発症早期からの投与は、これまでの診療指針に基づいた標準的な時期からのDOAC投与と比較して安全であった、との欧州・アジア15ヶ国103施設の国際共同ランダム化比較試験(ELAN研究)の結果が2023年6月29日のNew England Journal of Medicineニューイングランド ジャーナル オブ メディシン誌に発表されました。
脳梗塞で、脳動脈の動脈硬化が進行し粥種じゅくしゅが破綻し発症する脳血栓症の血栓形成には、血小板が大きな役割を果たしているので、再発予防には抗血小板薬(アスピリン・クロピドグレル・シロスタゾールなど)が使用されます。それに対して心房細動症例では、左房が有効な運動をせず血液が鬱滞し易く、特に左心耳という嚢状のうじょうの部位で血栓が形成され、この血栓が剥離し脳動脈に飛び閉塞させ脳塞栓症を惹起します。この様な流れの遅い部位での血栓の形成には凝固因子が大きな役割を果たすので、心房細動を伴った脳梗塞の再発防止にはワーファリンやDOACなどの抗凝固剤が用いられます。ワーファリンとDOACを比較すると、DOAC使用例の方が脳出血・頭蓋外出血の有害事象が少ない事がこれまでの臨床研究で判っています。心房細動を伴った脳梗塞症例に余り早期にDOACを投与開始すると出血の危険性が高くなると予想されますし、DOAC投与が遅いと脳梗塞再発の危険性が高くなるかもしれない。適切なDOAC投与開始の時期はこれまで分かっていませんでした。
ELAN研究では、先ず心房細動を伴った脳梗塞症例をCT・MRIでの梗塞の範囲で軽症・中等症・重症に分類します。2018年に公表された欧州のガイドラインに基づき、軽症は脳梗塞発症後3~4日にDOAC投与開始・中等症は発症6~7日に・重症例は発症12~14日に投与開始する後期群と、軽症・中等症は発症48時間以内に・重症は発症6~7日にDOAC投与開始する早期群に無作為に分けます。この2群間の発症後30日・90日での脳梗塞再発・症候性頭蓋内出血・頭蓋外出血・血管死数などの一次転帰を比較しました。
登録された2013例の内、37%が軽症、40%が中等症、23%が重症で1007例が後期群に1006例が早期群に振り分けられました。発症後30日の一次転帰は早期群では2.9%に発生したのに後期群では4.1%発生していました。脳梗塞再発は、30日で早期群は1.4%、後期群は2.5%で起こり、90日では早期群は1.9%、後期群は3.1%に認めました。30日までの症候性頭蓋内出血は、両群ともに0.2%に発症していました。
2023年に改訂された日本の脳卒中治療ガイドラインでは、「非弁膜症性心房細動を伴う急性期脳梗塞患者に、出血性梗塞のリスクを考慮した適切な時期にDOACを投与することを考慮しても良い」と記載されていますが、今後はこの研究の結果も踏まえ、発症早期からのDOACによる脳梗塞再発予防が一般的になるかもしれません。
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