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26: 閉塞性肥大型心筋症に新しい治療薬
閉塞性肥大型心筋症(HOCM)に対する経口選択的心筋ミオシン阻害剤aficamten(アフィカムテン)の第三相二重盲検試験(SEQUOIA-HCM)の結果が2024年5月13日 New England Journal of Medicineニューイングランド ジャーナル オブ メディシンに掲載されました。
心筋症診療ガイドラインでは、肥大型心筋症は、心エコー等の画像検査で15mm以上の左室壁の肥厚を認めるものの(正常は7~11mm)、高血圧に因る負荷や全身性の蓄積疾患(ファブリー病など)・浸潤性疾患(アミロイドーシスなど)を伴わないもの、と定義され、有病率は人口10万人当たり17.3人です。HOCMは、左室流出路での心室中隔の心筋の肥厚が著明で心室内の圧格差が30mmHg以上あるものを指します。
HOCMに対する薬物治療には先ずβ遮断薬か非-ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗剤であるベラパミルやジルチアゼムが用いられます。抗不整脈薬であるジソピラミドやシベンゾリンは心筋収縮力抑制作用を期待され使用される事もありますが、口渇・便秘・排尿障害などの抗コリン作用やQT延長などの副反応への注意が必要です。薬物治療に抵抗性の症状のあるHOCMに対して外科的中隔心筋切除術・経皮的中隔心筋焼灼術の適応がありますが、治療成績は術者の技量・治療経験数に依存します。
そもそもHOCMの病態は、筋節のアクチンとミオシンの過剰結合に因る心筋の過剰収縮が大きな役割を果たしています。アフィカムテンはこのアクチンとミオシンの過剰結合を阻害する作用があり、原因療法薬と言えます。同様のHOCMの原因療法薬にmavacamten(マヴァカムテン)があり、欧米では既に承認され日本でも第三相の治験が行われましたが、アフィカムテンはマヴァカムテンと較べ半減期が短く用量反応が緩やかという利点があります。
SEQUOIA-HCMは、欧米14カ国101施設で症状のある282人のHOCM症例を142症例にアフィカムテン投与群、140例を対照群に分け、24週後に最大酸素摂取量・カンザス市心筋症質問票(心不全評価の為開発された、身体制限・症状・自己評価・社会活動の12の項目に点数を付け100点が制限・症状が無い)の総点数(KCCQ-CSS)・NYHA分類・バルサルバ手技後の左室内圧格差等の試験開始時との変化量を評価項目としています。症例の平均年齢は59.1歳で59.2%が男性、安静時の平均左室内圧格差は55.1mmHg、左室駆出率は平均74.8%でした。全ての評価項目でアフィカムテン投与群は対照のプラセボ群に比較して有意に改善していました。マヴァカムテン治療例では10%の症例で左室駆出率が50%以下に低下していますが、SQUIOIA-HCMでは左室駆出率が50%以下に低下したのはアフィカムテン投与症例の僅か3.5%で、用量反応が緩やかである結果と考えられます。
近い将来、医療経済的に慎重な検討は必要であるものの、日本でもアフィカムテンはHOCMの有力な原因療法として導入されるでしょう。
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