54: SGLT2阻害剤の心保護作用の機序が判明
2026年8月27日のScience誌にペンシルベニア大学の研究グループが、ナトリウム-糖共輸送体2阻害剤(SGLT2阻害剤)の心保護作用は、パントテン酸キナーゼ1を活性化することで発現する、と発表しました。
SGLT2阻害剤は、元々経口の糖尿病治療薬で腎臓の近位尿細管で糖の再吸収を阻害し糖の排出を促進させる薬理作用を持っています。第三相臨床試験で2型糖尿病症例の心血管有害事象を減少させた事から、大規模臨床研究が行われ、糖尿病の重症度・有無に係わらず心不全(HFrEFでもHFpEFでも)の死亡率を21~30%減少させる事が判り、現在心不全治療の第一選択薬として治療指針で推奨されています。しかし、SGLT2阻害剤の本来の薬理作用だけで心保護作用を説明するのは無理があり、心臓にSGLT2は存在しないがSGLT2阻害剤は心臓に直接的に作用している事を示す幾つかの研究がある・SGLT2を遺伝的に欠損させた動物実験でもSGLT2阻害剤は心保護作用を示した事から、未知の作用機序の存在が推測されていました。
研究グループは、先ず心不全で心臓移植を受ける症例と心不全の無い臓器提供者の心室中隔から採取した平均7gの心筋組織片を緩衝液で潅流し、治療濃度のSGLT2阻害剤のエンパグリフロジン(エンパ)を含む群と対照群に採取した症例毎の心筋を夫々振り分け、放射性同位元素で標識した栄養素を投与しエネルギー産生代謝の活性を調べました。その結果、糖・脂肪酸・アミノ酸の消費量がエンパ群で増加し、全てのエネルギー産生代謝が増加していました。又、特徴的な事にエンパ群では、対照群と比べ、パントテン酸が2倍以上減少していました。パントテン酸(Vit B5)は、補酵素Aの合成に必要不可欠で、補酵素Aは糖・脂肪・アミノ酸を燃焼させエネルギー産生に必須の因子です。エンパが補酵素Aの合成を促進したためパントテン酸が欠乏した可能性が高く、パントテン酸→補酵素Aの経路の何処かにエンパが作用していると考えられました。実際にエンパ群に補酵素A合成を阻害するホパンテン酸を追加するとエンパの代謝改善効果が打ち消される事も研究グループは確認しています。心臓では補酵素A合成酵素の一つのパントテン酸キナーゼ1(PANK1)が多く発現していますが、興味深い事に機能不全心臓ではPANK1発現は抑制されていました。PANK1がエンパの作用標的である可能性が高く、様々な手法でエンパがPANK1に直接結合する事を研究グループは証明しました。そして、エンパ群ではエネルギー産生が増加するだけでなく、心筋の収縮能・弛緩機能も改善しており、既知のPANK1活性化薬PZ-2891を心筋組織に投与すると同様の機能改善が認められました。エンパ→PANK1活性化→補酵素A合成増加→エネルギー産生増加→心機能改善という一連の機序が判明したのです。他のSGLT2阻害剤であるカナグリフロジン・ダパグリフロジンでもPANK1活性が増え心筋細胞内のアセチルCoA濃度上昇が認められた事からSGLT2阻害剤のPANK1活性化はクラス効果である、と著者は結論しています。
将来、PANK1を標的とした創薬も期待されるでしょう。
SGLT2阻害剤は、元々経口の糖尿病治療薬で腎臓の近位尿細管で糖の再吸収を阻害し糖の排出を促進させる薬理作用を持っています。第三相臨床試験で2型糖尿病症例の心血管有害事象を減少させた事から、大規模臨床研究が行われ、糖尿病の重症度・有無に係わらず心不全(HFrEFでもHFpEFでも)の死亡率を21~30%減少させる事が判り、現在心不全治療の第一選択薬として治療指針で推奨されています。しかし、SGLT2阻害剤の本来の薬理作用だけで心保護作用を説明するのは無理があり、心臓にSGLT2は存在しないがSGLT2阻害剤は心臓に直接的に作用している事を示す幾つかの研究がある・SGLT2を遺伝的に欠損させた動物実験でもSGLT2阻害剤は心保護作用を示した事から、未知の作用機序の存在が推測されていました。
研究グループは、先ず心不全で心臓移植を受ける症例と心不全の無い臓器提供者の心室中隔から採取した平均7gの心筋組織片を緩衝液で潅流し、治療濃度のSGLT2阻害剤のエンパグリフロジン(エンパ)を含む群と対照群に採取した症例毎の心筋を夫々振り分け、放射性同位元素で標識した栄養素を投与しエネルギー産生代謝の活性を調べました。その結果、糖・脂肪酸・アミノ酸の消費量がエンパ群で増加し、全てのエネルギー産生代謝が増加していました。又、特徴的な事にエンパ群では、対照群と比べ、パントテン酸が2倍以上減少していました。パントテン酸(Vit B5)は、補酵素Aの合成に必要不可欠で、補酵素Aは糖・脂肪・アミノ酸を燃焼させエネルギー産生に必須の因子です。エンパが補酵素Aの合成を促進したためパントテン酸が欠乏した可能性が高く、パントテン酸→補酵素Aの経路の何処かにエンパが作用していると考えられました。実際にエンパ群に補酵素A合成を阻害するホパンテン酸を追加するとエンパの代謝改善効果が打ち消される事も研究グループは確認しています。心臓では補酵素A合成酵素の一つのパントテン酸キナーゼ1(PANK1)が多く発現していますが、興味深い事に機能不全心臓ではPANK1発現は抑制されていました。PANK1がエンパの作用標的である可能性が高く、様々な手法でエンパがPANK1に直接結合する事を研究グループは証明しました。そして、エンパ群ではエネルギー産生が増加するだけでなく、心筋の収縮能・弛緩機能も改善しており、既知のPANK1活性化薬PZ-2891を心筋組織に投与すると同様の機能改善が認められました。エンパ→PANK1活性化→補酵素A合成増加→エネルギー産生増加→心機能改善という一連の機序が判明したのです。他のSGLT2阻害剤であるカナグリフロジン・ダパグリフロジンでもPANK1活性が増え心筋細胞内のアセチルCoA濃度上昇が認められた事からSGLT2阻害剤のPANK1活性化はクラス効果である、と著者は結論しています。
将来、PANK1を標的とした創薬も期待されるでしょう。
30/Oct/2026